慢性期脊髄損傷完全麻痺に対する再生医療の足掛かり?

日本では、亜急性期の再生医療として、札幌医科大のステミラック(間葉系幹細胞)、慶応義塾大学のiPS細胞を用いた再生医療の治験が行われています。
しかし慢性期に関しては、亜急性期で行う治療法に加えて、いくつかのプロセスが必要になります。
その1つが、「脊髄内の足場を整えること」にあり、今回のニュースは正にそれに該当します。
慢性期の脊髄損傷の方では、その損傷部位に「瘢痕化」と呼ばれる現象が生じています。
分かりやすく説明すると、膝を擦りむいた際、かさぶたができると思いますが、それが脊髄内で起こっているということです。
脊髄内にあるかさぶたは、神経が回復し、また繋がろうとした際に、物理的な壁として繋がりをブロックしてしまうことで、神経は繋がらず、もちろん身体機能の回復も図れません。
今回の報告は、そのような状態にある慢性期脊髄損傷者の脊髄内の状態を、「どのように整えればまた神経が回復する状態になるのか」といった部分に焦点を当てた研究です。
Vlad Jarkovらは、
中枢神経系損傷の修復のために開発された圧電特性を持つセルロースベースの足場を作成した。
3D piezoelectric cellulose composites as advanced multifunctional implants for neural stem cell transplantationより引用
神経幹細胞は、この複合材料上で高い生存率を示し、神経細胞や支持細胞への分化が促進されることが確認されました。
従来の材料に比べて、細胞の組織形成能力や神経ネットワークの構築が大幅に向上しました。
と述べています。
慢性期の脊髄損傷完全損傷の方の再生医療には必ず通らないといけない問題ですが、少しずつ報告が増えてきていて、嬉しい限りです。
日本においても、慶応義塾大学が「Microenvironmental modulation in tandem with human stem cell transplantation enhances functional recovery after chronic complete spinal cord injury」という論文を2023年に発表しています。
こちらの論文の中で、橋本らは、
臨床的に重要な肝細胞増殖因子(HGF)放出スキャフォールドとヒトiPS細胞由来神経幹/前駆細胞(hNS/PC)移植による環境調節が、慢性完全切断SCI後の機能回復に寄与するという仮説を立てた。
Microenvironmental modulation in tandem with human stem cell transplantation enhances functional recovery after chronic complete spinal cord injuryより引用
コラーゲンスキャフォールドからのHGFの効果的な放出は、ミクログリア/マクロファージと髄膜細胞を活性化し、炎症を抑制し、瘢痕形成を減らし、血管新生を促進することで、進行性の軸索伸長と移植細胞の生存率の増加を引き起こしました。
さらに、hNS/PC 移植により、内因性ニューロンの再生、移植軸索の延長、病変周囲の回路形成、宿主ニューロンと移植ニューロン間の腰椎拡大が促進され、運動機能と排尿機能が回復しました。
と述べています。
以下に簡単に説明すると、
脊髄が完全に切断された場合、自然に治ることは難しいですが、HGFというタンパク質を持つ「コラーゲン製の足場」を使えば、損傷部分の環境を改善できるのではないかと考えた。
足場からHGFが放出されることで、傷ついた脊髄の炎症が抑えられ、傷跡(瘢痕)が少なくなりました。さらに、血管が新しく作られ、神経が成長しやすい環境が整った。
移植された神経細胞は、損傷した脊髄の周りに新しい神経回路を作り、体内の元々の神経とつながることで、運動機能や排尿機能の回復に貢献した。
ということになります。
これからも少しずつ慢性期脊髄損傷の完全損傷に向けての治療方法の研究が進んでいきます。
私たちリハビリテーション職種としても、「リハビリの標準化、プロトコール(手順の統一されたもの)の作成」などが課題ですので、頑張っていきたいです。
モルテンの車いすクッション『パワークッション』第19回 日本シーティング・シンポジウムで症例として発表

次のニュースは、モルテンのパワークッションについてです。
このニュース記事では、
ポケットを伴う皮下組織に至る褥瘡を有する脊髄損傷の患者様において、車いすクッションを『パワークッション』に変更することで、その後4か月でポケットが縮小した、という症例が発表された。
PR TIMESより引用
褥瘡の再発を繰り返していた脊髄損傷の患者様に対し、座圧計測で良好な結果が得られた『パワークッション』に変更した結果、車いす座位の時間が確保され、起立性低血圧を悪化させることなく褥瘡の治癒と再発予防に繋げることが出来た。
としています。
モルテンのパワークッションは、簡単に言うと、モルテンが出しているベッドマットレス「オスカー」のクッションバージョンとイメージすると分かりやすいと思います。
つまり、定期的にクッション内の空気が動き、圧が多くかかる箇所を入れ替えることで、一定の場所に持続的に圧がかかることを防ぎ、褥瘡を予防するという仕組みになっています。
除圧という部分ではメリットは大きいかもしれませんが、価格(6-8万円)、重量(1.2kg+バッテリー)、メンテナンスの必要性などもあり、まだまだ一般的な人と度は低いクッションとなっています。
私も一度患者様に対してデモを使用したことがありますが、上記の理由から選択されませんでした。
しかし、除圧性能に関しては高いクッションと言えるため、褥瘡のハイリスクの方などには検討する余地はあるかも知れませんね!
おわりに
本記事では、脊髄損傷に関する一般的な情報をお伝えしました。お読みいただき、ありがとうございました。
なお、本記事の内容は医学的助言を提供するものではなく、情報提供を目的としています。健康状態やリハビリについては、医療機関や専門家にご相談ください。
皆さんの生活に役立つ情報を今後も発信していきますので、引き続きよろしくお願いいたします。
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