【褥瘡予防の鍵】車椅子上での除圧動作はどのような頻度ですれば良いの?

基礎知識

皆さんは車椅子上で除圧をどの程度意識していますか?
当事者の方に質問をすると、

SCIの方
SCIの方

褥瘡になると困るので、やらないといけないことは分かるんですけど、どのような頻度で、どのくらい除圧したら良いのかがわかりません。

というお声を耳にすることが多いです。
このように、適切な除圧頻度や時間を把握していないと、必要以上に除圧に意識や時間を割いてしまったり、頻度や時間が足りないことで褥瘡が出来てしまうケースもあります。

そこで今回は、「車椅子と除圧頻度・除圧時間」について、エビデンスと自身の経験・考えを交えて解説していきたいと思います。

はじめに

この記事では、2つのガイドラインからなる「除圧頻度と除圧時間」のエビデンスと、脊髄損傷の方100例程度担当させていただいた経験から考える「除圧頻度・時間の考え方、チェックポイント」についてお話ししていきたいと思います。

したがって、

SCIの方
SCIの方

エビデンスは知っていて、実践しているけど、チェックポイントについて知りたい

SCIの方
SCIの方

注意点は知っているけど、ガイドラインとしてのエビデンスも知っておきたい

という方々必見の内容となっています。

除圧頻度と除圧時間のエビデンス

15分ごとに15秒

まず紹介する1つ目のガイドラインは、

Pressure Ulcaers:What You Should Know A Guide for People with spinal Cord Injury. ppl5, consortium for SPINAL CORD MEDICINE, 2002.

というもので、直訳すると「褥瘡:脊髄損傷患者のためのガイド – 知っておくべきこと」となります。

このガイドラインの記述では、

一般的な除圧動作は15分ごとに15秒
介助やティルト機構の利用などであれば30分ごとに30秒行う必要がある。

Pressure Ulcaers:What You Should Know A Guide for People with spinal Cord Injury. ppl5, consortium for SPINAL CORD MEDICINE, 2002.

と示されています。
ただし、このガイドラインの中身を確認してみると、この根拠となる頻度と時間は実験や研究によって導き出された数値ではなく、あくまで経験則から出てきた数字であるとされています。
つまり、言い換えると、

理学療法士
理学療法士

このくらい頻回にやっておけば、どんな人でも褥瘡にはならないよ!

という基準の数字であると言えます。
ですので、褥瘡予防の観点から言えば、これ以上の頻度・時間は基本的には行う必要はないのでは?というくらいの数字という理解で良いと考えています。

30分ごとに1~2分間の除圧

次に紹介するガイドラインは、

Consortium for Spinal Cord Medicine :Pressure ulcer prevention and treatment following spinal cord injury:A clinical practice guideline for health-care professionals, second edition, 21-23, Paralyzed Veterans of America,2014.

です。このガイドラインは、書籍として分類される資料でありながら、内容が科学的根拠に基づいているため、学術信頼性が高いものとして扱われています。そのため、研究や教育の場でもしばしば用いられます。

このガイドライン内の記述では、

皮膚の酸素飽和度を調査した研究などから,30分ごとに1~2分間の除圧を勧める。

Consortium for Spinal Cord Medicine :Pressure ulcer prevention and treatment following spinal cord injury:A clinical practice guideline for health-care professionals, second edition, 21-23, Paralyzed Veterans of America,2014.


とあります。1つ目のガイドラインでは経験則に基づいた数値でしたが、今回は、皮膚が圧迫されることで、その部分の酸素飽和度が低下することに着目し、血液循環が滞ることで身体に影響が出る時間を導き出しているため、より信頼性が高い数値といえます。

とはいえ、この2つのガイドラインの頻度は、車椅子ユーザーの方からすると、

SCIの方
SCIの方

頻度として高すぎる・・・

SCIの方
SCIの方

仕事をしているとこんなに
頻回には除圧できないです・・・

とのお返事をいただくこともしばしばあります。

この返答後の理学療法士との会話としては、

理学療法士
理学療法士

ちょっと大変ですけど頑張ってください。
忘れてしまうことが多いと思うので、携帯のリピートタイマー機能なども使用しながら続けて下さい。

との回答が一般的かと思うのですが、私なりにお伝えしていることがあるので共有したいと思います。

経験から考える私自身の考え・チェックポイント

以下は私の意見ですが、結論から言うと、「適切な除圧頻度はそれぞれ異なる」と考えています。
必要な方は15分おきに必要でしょうし、60分おきや、1日中乗車していても褥瘡ができない方もおられます。それはなぜでしょうか?そしてどのように頻度や時間を判断すればよいのでしょうか?

褥瘡ができやすい人

褥瘡ができやすい条件に当てはまる方は、より頻回に除圧する必要があると考えられます。
その要因として、

  • やせ型の方(骨突出部に圧が集中しやすい)
  • 栄養状態が悪い方(傷が治りにくい)
  • 循環状態が悪い方(糖尿病など)
  • 湿気や摩擦が多い環境の方(座面や衣服の摩擦、汗や失禁による皮膚の湿潤)

などが挙げられます。これらはあくまで一部ですが、少なくとも上記に当てはまる方はご自身が褥瘡のハイリスクであると自覚する必要があります。

除圧頻度の決め方

除圧頻度の決め方として、「骨突出部が赤くなっていないか確認する」ことが重要と考えています。
また、赤くなっている場合は、「圧迫することで、黄色くなるか、赤いままか」を確認することも非常に重要です。圧迫しても赤いままの場合、医学的には初期の褥瘡の状態と考えられます。したがって、除圧頻度としては足りておらず、そのままの除圧頻度・時間での管理を続けていれば、褥瘡が生じる可能性が高いです。

逆に皮膚の状態が赤くなっていない場合は、少なくとも表面の皮膚へのダメージは少ないと考えられます。しかし、近年表層の皮膚のみでなく、皮膚の深層部分で褥瘡が発生するケースがあるという報告も増えてきているため、必要であればエコーの検査などを行い、深層の皮膚へのダメージの有無を確認する必要があります。

少なくとも「時間を守るだけではなく、褥瘡が発生しやすい部分の皮膚観察を行っておく」ことが重要であると考えています。

おわりに

今回は除圧頻度と時間に関して、2つのガイドラインと個人的見解をお伝えしました。
「エビデンスに基づいて除圧をしていれば良い」「皮膚の状態だけチェックしていれば良い」ではなく、「エビデンスを知った上で、自身の皮膚状態と向き合いながら調整していく」必要があります。

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脊髄損傷研究所

認定理学療法士(脊髄障害)/脊髄損傷の方を100例以上担当/再生医療/BMI/「無知こそ最大のリスク」をテーマに、脊髄損傷の当事者の方に向けて、脊髄損傷に関するトピックスを、医学的な知識がない方でも理解ができるよう、分かりやすく解説するブログ「SCI LAB」を運営。

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まとめ

  • 除圧頻度・時間のエビデンスとして、15分ごとに15秒・30分ごとに1~2分間の除圧がある。
  • 自身が褥瘡のハイリスクであるのかどうかを理解する。
  • 適宜皮膚のチェックを行うことで、どの部分に褥瘡が出来やすいか、除圧頻度や時間による変化が生じるかを確認し、頻度・時間の調整を行なっていく必要がある。

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