脊髄損傷の方の多くは、「痙性」に悩まされており、その治療法・リハビリテーションは多岐にわたります。その中で、当事者の方から、
脊髄損傷の痙性(痙縮)に対して、振動刺激が良いという
お話を聞いたことがあるんですけど、本当ですか?
という質問をいただくことが多くなってきました。
しかし、当事者の方の中でも、その多くの方は、なぜ良いのか、そのメカニズムや、どのような強度の振動刺激を、どの程度の時間行えば良いのか、その効果はどの程度続くのかまで説明され、理解されているケースは少ないように感じます。
そこで今回は、「痙性に対する治療として、振動刺激は有効なのか?」というテーマで解説していきたいと思います。
注意点として、脊髄損傷の痙性としての振動刺激療法はエビデンスも少ないため、一部脳血管疾患の方の痙性としてのエビデンスも交えてお伝えする形となります。
この記事で分かること
・振動刺激療法の概要
・痙性に対する振動刺激療法の効果
・実施方法と注意点
・振動刺激療法のメカニズム
それでは早速行ってみましょう!
振動刺激とは?
振動刺激は、乗り物や振動する道具など、古くから人体への曝露の問題や生理学的応答、臨床効果の研究報告が報告されている物理刺激になります。
物理療法としての振動刺激は、おもに次の2つに大別されます。
局所振動刺激療法
局所振動刺激療法は、画像のように身体の一部に対して局所的に行う振動刺激療法になります。この療法は歴史もあり、単一筋の痙性低下には有効と考えられます。しかし脊髄損傷の方に対しての治療と考えると、対象筋が多いため、必ずしも有効な手段とはいえません。
全身振動(whole body vibration:WBV)療法
全身振動療法(以下WBV)は、画像のようにパワープレート等を使用し、身体の大部分もしくはすべてに振動刺激を与えるような治療法です。
American Heart Association/ American Stroke Associationが提唱している脳卒中リハビリテーションのガイドラインでは、
痙縮に対する振動刺激などの物理的モダリティはリハビリテーション医療において一時的に痙縮を改善するのに妥当である可能性がある
Winstein CJ,et al:Guidelines for Adult Stroke Rehabilitation and Recovery:A Guideline for Healthcare Professionals from the American Heart Association/ American Stroke Association.Stroke,47:e98-e169,2016
と推奨されており(グレードlassⅡb)、一度に多数の痙性筋に対する治療が行えるため、脊髄損傷の方に対する治療にも適していると考えられます。
したがって、以下はWBVについて解説していきたいと思います。
実施方法
さて、次は実際に行う場合、どのような肢位、設定が良いのかについて解説しています。解説には2つの論文を引用していきます。
1つ目として、宮良らの、
・治療肢位:訓練中は痙性低下を狙う筋肉を少し引き延ばした状態にしておく。
Miyara K, et al:Effect of whole body vibration on spasticity in hemiplegic legs of patients with stroke. Top Stroke Rehabil 2018;25:90‒95
・刺激強度:周波数30Hz、振幅High(4-8mm)
・実施時間:5分間
・注意点:振動開始直後は痙性筋に強い筋収縮が出現するが、数分後には消失する。
2つ目として、Marconiらの、
DAViSの介入法に近い振動周波数が100Hzの振動刺激を直接痙縮筋に与える方法で脳卒中片麻痺例を対象にRCTを実施し,痙縮抑制効果と大脳皮質の皮質内抑制に変化を与え,運動機能を改善し痙縮を減弱させることを報告した.
Marconi B et al:Long-term effects on cortical excitability and motor recovery induced by repeated muscle vibration inchronic stroke patients.Neurorehabil Neural Repair 25(1):48-60,2011.
があります。
まとめると、治療姿勢としては筋肉を少し引き延ばした状態、つまり軽くストレッチをかけた状態で振動刺激を与えること、その周波数は30Hz~100Hz(1分間あたりで換算すると1800~6000回)と幅があること、実施時間は5分程度で、最初は反射の兼ね合いで筋収縮が強く出るが、徐々に弱まってくるということになります。
このあたりの情報は報告も少ないため、今後の研究によって変化する可能性があります。
また最新知見が出てきた際は更新・修正をしていきます。
痙性抑制の即時効果・持続効果
次に、痙性に対する振動刺激療法の即時効果、持続効果についてそれぞれ解説していきます。
即時効果
振動刺激療法の即時効果については、
対象は片麻痺下肢の程度がBrunnstrom Recovery Stage Ⅲ以上、下腿三頭筋の痙縮の程度がModified Ashworth Scale(MAS)で1以上、屋内歩行監視レベル以上の25名であった。
Miyara K, et al:Feasibility of using whole body vibration as a means for controlling spasticity in post‒stroke patients:a pilot study. Complement Ther Clin Pract 2014;20:70‒73
WBV前後で有害事象なく、MASや関節可動域(range of motion:ROM)、歩行速度の改善を確認した。
との報告があります。
これは脳卒中片麻痺の方を対象とした報告ですが、下腿三頭筋というふくらはぎの筋肉に対してWBVを実施したところ、MAS(痙性を評価するための指標で、数字が大きいほど痙性が強いことを示す)の低下や、関節可動域の拡大を示し、結果的に歩行速度が改善したとのことです。
持続効果
MASとROM、F 波パラメーターにおいて、介入直後から20分後までの持続効果を確認した。
Miyara K, et al:Effect of whole body vibration on spasticity in hemiplegic legs of patients with stroke. Top Stroke Rehabil 2018;25:90‒95
痙縮はほぼ全例に改善効果が出現し,運動機能もいずれの評価でも有意な改善を示した:)).DAViSの効果持続時間は, DAViS後5分ごとに測定した手関節屈筋群のMASや手関節背屈AROMの変化から徐々に前の状態に戻る傾向があるが30分まで確認できており,それ以降の効果持続時間は臨床的印象からはおおよそ60分程度ではないかと推察している.
野間知一・他:脳卒中片麻痺上肢への痙縮筋直接振動刺激による痙縮抑制効果作業療法27(2):119-127,2008.
以上2つの論文をまとめると、振動刺激後、20分間は確実に効果がある時間、その後緩やかに戻っていき、最長60分程度といったところでしょうか。この持続時間では日常生活の中での利用は困難であると考えられるため、リハビリテーション前のウォーミングアップなどへの利用が一般的となっています。
なぜ振動刺激で痙性が落ちるの?
痙性とは、筋の伸張を感知する器官が不具合を起こすことにより、身体に備わっている伸張反射が、異常なほどに過敏に反応してしまうことであり、痙性患者においては、脊髄前角細胞の興奮性が亢進するとされています。
宮良らの報告では、
WBV介入前は非麻痺側に比べ麻痺側の興奮性が亢進していた。WBV介入直後では、F 波パラメーター(F波振幅,F/M比)にて脊髄前角細胞の興奮性の低下が確認され、脊髄レベルの興奮水準の調整が行われることが示唆された。
宮良広大,他:脳卒中片麻痺下肢への全身振動刺激(Whole body vibration)による痙縮抑制効果―誘発電位F 波を用いた検討.理学療法学2015;42:90‒97
とされています。つまり、筋電図で筋肉のF波パラメーターと言われる指標を確認したところ、脊髄前額細胞の興奮性の低下が確認されたため、振動刺激療法が痙性の原因に対して有効な治療であると述べられています。
また、
DAViSが本来働くべき対側運動感覚皮質の興奮水準を高め,この領域が活動しやすい状況に調整し結果として痙縮が減弱したものと考える
野間知一ら:振動刺激を用いたニューロモデュレーション, Journal of CLINICAL REHABILITATION, Vol.32 No.7 pp698-702, 2023
といった報告もあり、脳に対しての調整機能が働くといった見解もあります。
細かいエビデンスについてはまだ不明な部分も多いですが、少なくとも振動刺激療法にて痙性の低下がみられるということは証明されているといった状況となっています。
おわりに
今回は痙性に対する振動刺激療法というテーマで解説しました。
痙性に関しては、苦しめられている方が多い症状の1つかと思いますので、少しでもその症状が和らぐような治療法の確立が必要です。
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まとめ
・振動刺激とは:古くから人体への曝露の問題や生理学的応答、
臨床効果の研究報告が報告されている物理刺激
・実施方法:治療姿勢としては筋肉を少し引き延ばした状態
周波数は30Hz~100Hz(1分間あたりで換算すると1800~6000回)
実施時間は5分程度
・治療効果:MASや関節可動域(range of motion:ROM)、歩行速度の改善を確認
メカニズム:脊髄前額細胞の興奮性の低下や脳に対しての調整機能が働くといった見解がある
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