脊髄損傷とブレインマシーンインターフェース:新たな希望の光

最新知見

皆さんは、「脳で念じたことが実際に起こる」と言われると、どう思いますか?

脊髄損傷の方
脊髄損傷の方

そんなの夢物語だよ

脊髄損傷の方
脊髄損傷の方

あり得ない話ですね

このように感じる方も多いのではないでしょうか?しかし、現在、脳を取り巻く神経ネットワークの解析技術が目まぐるしい発展を遂げており、治験が実施できる所まできています。
今日は、脳と身体を繋ぐ「ブレインマシーンインターフェース(以下BMI)技術」について解説していきたいと思います!

はじめに

脊髄損傷の方の中には、首から下が全く動かせない方もおられます。
そのような方の場合、パソコンやスマートフォンといったデバイスを口で咥えたスティック(マウススティック)や、視線を使用して文字やクリック操作などを入力するPC・スマホデバイスを使用して操作を行います。
しかし、眼筋の疲労や、入力速度の課題があり、使用には制限が付きまといます

また、手足を少しずつ動かせる方の場合、歩行の獲得を目指すことが多いですが、思うように麻痺の回復が得られずに治療に難渋する方も多いです。
そんな方々にとって、BMI技術は大きな可能性を秘めた技術であると言えます。

BMI技術に関して、大阪大学が頸髄損傷の方を対象に、2011年に行った意識調査がありました。
その調査の中で、

ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)に対する頸髄損傷患者さんの意識調査より引用

という調査結果があり、脊髄損傷の方々のBMI技術への関心や、環境・運動制御・意思疎通での困りごとへの解決への期待が伺えます。

そんなBMI技術とは、どのような技術なのでしょうか?

今回のブログでは、まず脊髄損傷について簡単に解説した後、ブレインマシーンインターフェース技術の概要、実際の取り組みや最新の研究報告をご紹介します。

したがってこの記事は、

当事者の方
当事者の方

ブレインマシーンインターフェースという言葉は聞いたことがあるけど、実際どのような技術なのか知りたい

ご家族様
ご家族様

自身や家族がその研究の対象者になるのか知りたい

といった方々には是非読んでいただきたい記事となっています。

概要

まず脊髄損傷がどのような状態なのか、簡単に説明します。
日本脊髄外科学会では、

脊髄は脳からの「手足を動かす・痛みやシビレを感じる」といったような信号を、手足の細い神経に伝える太い神経のようなものですが、強い外力などで脊椎が折れたり、大きくずれたりすると、その中に入っている脊髄も一緒に損傷されてしまうことがあります(脊髄損傷)。

https://www.neurospine.jp/original62.html

と定義しています。

通常、脊髄は身体の神経系の中心であり、脳からの信号を身体の他の部分に送り、身体の感覚情報を脳に送る役割を果たしています。脊髄損傷が発生すると、この通信が妨げられ、感覚や運動機能が部分的、または完全に障がいされることになります。それによって、脊髄損傷の方の生活は、大きく妨げられることとなります。

BMI技術について

次に、ブレインマシーンインターフェース技術について解説します。

ブレインマシーンインターフェースとは、直訳すると「脳と機械を繋ぐ装置」となります。つまり、脳と機械を直接接続し、脳が考えている情報や操作を読み取ることで、機械を動かすようなしくみのことを指します。
この技術を応用することで、脊髄損傷者の生活は大きく好転する可能性があります。

BMI技術の実際

ここからは、実際の取り組みや、研究報告についてご紹介します。
脊髄損傷者とブレインマシーンインターフェースについては、大きく分けて2つの要素が存在します。

環境制御装置としてのBMI技術

1つ目は、脳で考えた内容を読み取り、パソコンやスマートフォンなどのデバイスを動かす技術です。この技術は、現在イーロンマスク氏が代表を務めるニューラリンク社が行っている研究が注目を集めています。

この研究では、脳で思考した内容を読み取ることで、そのようなデバイスを使用しなくてもパソコンを動かす技術が開発されています。具体例として、ニューラリンク社の研究をご紹介します。

この最近ニューラリンク社がYOUTUBEにアップロードした動画では、脳に特殊なデバイスを埋め込んだ脊髄損傷の方が、頭で念じてパソコンを動かし、チェスを行っています。このように、手足の不自由な方であっても、オンラインゲームをプレイできるような速度で入力が行えることで、当事者の方の社会復帰・仕事復帰の幅は大きく広がると考えられます。

歩行改善デバイスとしてのBMI技術

2つ目は、脳で念じた内容を、電気刺激のデバイスなどを使用して脊髄を刺激し、歩行などの動作を可能とする技術が挙げられます。BMI技術の中には含まれますが、1つ目の環境制御装置との差別化を図る目的もあってか、BSI(Brain Spine Interface)と呼ばれることもあります。

このBSIについては、2023年5月に、世界的な権威があるnatureという雑誌に投稿された論文(Walking naturally after spinal cord injury using a brain–spine interface)が大きなインパクトをもたらしました。

この論文は、脳と脊髄にデバイスをインプラントすることで、歩行能力が改善したという内容です。簡単に概要を説明します。

この動画は先ほどの論文の内容がまとまっているニュース記事になります。

研究の手順としては、まずはインプラントを埋め込む前に、脳の中のどの領域が目的とする動作、今回の場合は足の力を司どる領域がどこなのかを割り出しました。
次に、その領域にデバイスをインプラント、埋め込みました。
そして、その信号を受け取るデバイスとして、脊髄にもデバイスを埋め込み、脳の信号を、脊髄損傷が生じており、神経伝達が上手く行えない部分をスキップして脊髄を刺激し、足の筋肉を動かすことができるようにしました。

また、そのような状況下でトレーニングを実施していくことで、損傷された脊髄領域の回復を促すことができ、最終的にはデバイスなしでもある程度足を動かすことができるようになるのではと言われています。

脊髄損傷とブレインマシーンインターフェース技術の未来

最後に、脊髄損傷とブレインマシーンインターフェース技術の未来についてです。

先ほどの2つの研究にあったように、脳にデバイスを埋め込むという点については既に治験が開始しているところではありますが、やはり注意しないといけないのはその副作用についてです。
身体にデバイスを埋め込むことは、傷口からの感染のリスクや、誤作動による問題など、さまざまなリスクがあり、今はその安全性についての議論がなされているといった状況です。
この安全性が担保できれば、様々な研究やアンケートから脊髄損傷の方のこの技術に対する期待度の高さは伺えるため、どんどん研究が進んでいくのではと考えます。

その際に問題となるのは、当事者の方々が正しい情報をタイムリーなタイミングで収集しておくことにあると考えています。

おわりに

今回は脊髄損傷とブレインマシーンインターフェイス技術という内容をお送りしました。いかがでしたでしょうか?

このブログでは、脊髄損傷に関しての最新情報・確かな情報を、根拠を交えながら、医学的知識がない方にも分かりやすいように解説することをモットーとしています。

ブレインマシーンインターフェース技術は脊髄損傷のみならず、全世界で注目されている技術であり、今後ますますの発展が期待されます。最新情報があれば適宜更新していきたいと思いますので、フォローなどよろしくお願いします。

脊髄損傷研究所

認定理学療法士(脊髄障害)/脊髄損傷の方を100例以上担当/再生医療/BMI/「無知こそ最大のリスク」をテーマに、脊髄損傷の当事者の方に向けて、脊髄損傷に関するトピックスを、医学的な知識がない方でも理解ができるよう、分かりやすく解説するブログ「SCI LAB」を運営。

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