【最新知見】脊髄損傷入院初期の褥瘡と神経回復の関連性

最新知見

皆さんは、入院中に褥瘡が出来てしまったことはありますか?私は回復期病院に勤務しており、急性期病院から転院されてきた患者様に、褥瘡が出来てしまっているケースを多数経験してきました。
その中で、理学療法士としては、

脊髄損傷研究所
脊髄損傷研究所

褥瘡があるとリハビリに制限がかかるから、訓練としては少し遅れてくるな・・・

という印象がありました。これは間違いない事実ですが、それは運動量が減少することによるものであり、神経学的な影響については考慮したことがありませんでした。
そんな中、褥瘡が直接「長期運動スコア回復」に関連するということを示した論文が、2024/12/6に公開されました。

こちらはその情報をXに投稿したものですが、反響がありましたので、今回解説していきたいと思います。

論文は、オハイオ州コロンバス –オハイオ州立大学ウェクスナー医療センター および医学部と、ドイツ・ベルリンのシャリテ・ベルリン大学医学部の科学者らが主導した、Hospital-Acquired Pressure Ulcers and Long-Term Motor Score Recovery in Patients With Acute Cervical Spinal Cord Injury(急性頸髄損傷患者における院内褥瘡と長期運動スコア回復)という報告です。

はじめに

脊髄損傷の方の神経回復の程度は、人によってばらつきがあります。そのばらつきが生まれる要因として、「損傷の重症度」というものはもちろん考えられます。しかし、本当にそれだけでしょうか?
神経回復の「ばらつき」はないのでしょうか?

コップらは、

回復に関連するネットワークを乱す二次的な転帰の修正因子の存在を示唆する

Hospital-Acquired Pressure Ulcers and Long-Term Motor Score Recovery in Patients With Acute Cervical Spinal Cord Injury

とあり、その中の1つとして褥瘡を挙げています。

褥瘡は、

褥瘡とは、寝たきりなどによって、体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ることで、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、傷ができてしまうこと。一般的に「床ずれ」ともいわれる。

日本褥瘡学会HP

とされており、全身の炎症レベルの上昇をもたらします。

傷口からは血流を介して体内に広がる細菌もいると考えられ、これらの要因によって、脊髄損傷後の神経回復のメカニズムを妨げているのではないか?という点が今回の論文のテーマとなっています。

研究方法

コップらは、

この研究には脊髄損傷患者 1,282 人が含まれ、そのうち 594 人 (45.7%) が全国 20 か所での最初の入院中に褥瘡を発症しました。

Hospital-Acquired Pressure Ulcers and Long-Term Motor Score Recovery in Patients With Acute Cervical Spinal Cord Injury

全体の45.7%に褥瘡が発生しているという現状は、神経学的回復に影響を及ぼすか否かという点以上に衝撃的な数字ですね。医療者として、さらなる褥瘡の発生予防に努める必要性を感じます。

研究結果

コップらは、

褥瘡を発生した群としない群で、(1)神経学的回復、(2)1年後の機能的自立、(3)最長10年間の生存率に有意差がみられた

Hospital-Acquired Pressure Ulcers and Long-Term Motor Score Recovery in Patients With Acute Cervical Spinal Cord Injury

としています。神経学的回復が遅延することで、1年後の基本動作の自立度も変化し、さらに10年間の生存率も変わってしまったということです。

また、コップらは、

内因性回復力は、完全 AIS A 患者と比較して、AIS B および C グレードの SCI の不完全患者の方が大きい
AIS B および C グレードの患者では、観察された
褥瘡と運動機能的回復との関連性は、AIS A と比較して大きかった

Hospital-Acquired Pressure Ulcers and Long-Term Motor Score Recovery in Patients With Acute Cervical Spinal Cord Injury

とあり、完全麻痺の方よりも、不全麻痺の方の方が、褥瘡の有無によってより神経回復に差が出ていたという結果が示されています。
これに関しては、一般的に完全麻痺の方よりも、不全麻痺の方の方が神経回復はより得られやすいとされているため、褥瘡の影響が強く出てきているものと考えられます。

研究の課題

  • 褥瘡の有無以外にも、他の因子が考えられる点
  • メカニズムがはっきりしていない点

が挙げられます。いずれも今後の研究結果に期待したい所です。

おわりに

今回はHospital-Acquired Pressure Ulcers and Long-Term Motor Score Recovery in Patients With Acute Cervical Spinal Cord Injury(急性頸髄損傷患者における院内褥瘡と長期運動スコア回復)という論文を引用しながら紹介しました。

個人的には、褥瘡の発生率がこれほど高いということに驚きでした。

今回は脊髄損傷を受傷された初期の段階で褥瘡が生じた場合の神経回復についての論文でしたが、慢性期においても、褥瘡の発生は活動制限を招き、さらなる二次障害を引き起こす可能性が高くなります。皆さんの褥瘡発症を防ぐことができるよう、引き続き正しい情報を、根拠を基にして発信できればと考えています。

個人的な悩みや、今後記事にして欲しい気になる情報があれば、こちらのGoogle Formにて承っております。匿名で投稿可能ですので、お気軽にご投稿下さい。

脊髄損傷研究所

認定理学療法士(脊髄障害)/脊髄損傷の方を100例以上担当/再生医療/BMI/「無知こそ最大のリスク」をテーマに、脊髄損傷の当事者の方に向けて、脊髄損傷に関するトピックスを、医学的な知識がない方でも理解ができるよう、分かりやすく解説するブログ「SCI LAB」を運営。

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まとめ

  • 褥瘡が直接「長期運動スコア回復」に関連するということを示した論文を紹介
  • 研究には脊髄損傷患者 1,282 人が含まれ、そのうち 594 人 (45.7%) が全国 20 か所での最初の入院中に褥瘡を発症
  • 褥瘡を発生した群としない群で、(1)神経学的回復、(2)1年後の機能的自立、(3)最長10年間の生存率に有意差がみられた
  • 慢性期においても、褥瘡の発生は活動制限を招き、さらなる二次障害を引き起こす可能性が高いため、注意が必要

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